強制わいせつ罪で警察に呼ばれたら-捜査の流れと示談交渉
強制わいせつ罪は、きっかけは痴漢であっても行為が悪質であればその罪に問われてしまうなど、予想以上に身近な性犯罪です。
強制わいせつ罪で逮捕されてしまったり、警察から呼び出しがあったりした場合、その後の捜査や取り調べはどのような流れで行われるのでしょうか。
ここでは、強制わいせつ罪について、捜査の流れや、不起訴にするために重要な示談交渉などについてご説明します。
このコラムの目次
1.強制わいせつ罪とは
強制わいせつ罪について定めた刑法第176条は、以下のように規定しています。
刑法第176条
十三歳以上の男女に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、六月以上十年以下の懲役に処する。十三歳未満の男女に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。
条文からわかるように、強制わいせつ罪には罰金刑がないため、起訴されると正式裁判となり、無罪にならない限りは懲役刑を受けることになります(執行猶予がつく可能性はあります)。
また、強制わいせつ罪は法改正により厳罰化され、告訴が不要になる「非親告罪」に変わりました。
そのため、検察官が起訴をするうえで被害者からの告訴を必要とすることはありませんので、仮に示談が成立したとしても、検察官の評価次第では必ずしも不起訴になるわけではないという点に注意が必要です。
2.警察・検察の捜査の流れ
一般的には、被害者が被害届を警察に提出することにより、捜査が開始されます。
被疑者が逮捕された場合、被疑者に逃亡の可能性や証拠隠滅の可能性があると検察官が考えるならば、「勾留請求」がなされます。罰金刑がないような重い犯罪の場合、ほとんどの場合はこれが行われるでしょう。
そうすると、最大で逮捕から23日間留置所に勾留されることになり、会社や学校を休まなくてはならないなど、日常生活に大きな影響が生じます。まずはこの勾留が行わせない、行われたとしてもすぐ取り消させることが被疑者やその利益を代弁する弁護人にとって大きな節目となります。
警察の捜査が終わると、事件が検察庁に送致され、勾留の有無に関わらず検察官が必要な捜査を行い、被疑者、被害者等の取り調べを行います。
検察の捜査が終了すると、最終的な処分を検察官が決めることになります。
被疑者が勾留されている場合、勾留期間の満期を迎えるまでの間に、検察官が処分を決めることになります。
一方、被疑者が逮捕または勾留されていない在宅事件の場合には、検察官から呼び出しの連絡があり、検察庁にて取り調べを受けることになります。処分が決まるまでには、数週間から数か月程度かかることがあります。
処分の内容としては、示談成立など被疑者に有利な事情があれば不起訴になる可能性もありますし、そうでなければ起訴され、裁判になる場合もあります。強制わいせつ罪には罰金刑がないので、罰金刑だけを言い渡すことのできる略式手続はなく起訴された場合全て正式裁判となります。
裁判になった場合には、無罪を争わない限りはほとんど有罪判決を受けることとなり、前科がついてしまいます。
この場合、その後の人生に大きな影響が出ますので、不起訴を目指すためにも、被害者との示談を成立させることが重要になります。
3.強制わいせつ罪の示談交渉について
(1) 示談とは
刑事事件における示談では、加害者が被害者に対して謝罪や再発防止の誓いなどをして一定額の示談金を支払うことで、被害者から事件につき許してもらい、加害者の刑事処分を求めないよう被害者と交渉することになります。
示談が成立すれば、処分を決める検察官においても、「被害者が許しているのだからこれ以上処罰する必要はない」と判断し、不起訴処分や執行猶予判決など寛大な処分を下す可能性が高まるため、示談の成否が結果を大きく左右するといえます。
(2) 示談交渉のポイント
示談交渉の際には、被害者が、加害者側の謝罪・反省の気持ちを受け入れて、示談金を受け取ってもらえるかどうかが大変重要なポイントになります。
他方で、加害者としても支払える示談金には限りがあると思いますので、どの程度の金額や条件で被害者に納得してもらうことができるのかについて、慎重な対応が求められます。
一般的に、強制わいせつなどの性犯罪の場合には、被害者が精神的にダメージを受けていることが多く、治療費なども加味すれば、交渉が難航することが予想されます。
また、被害者の家族や交際相手などが交渉の場に同席することも多く、その際には交渉が複雑化することも多々あります。
(被害者が未成年の場合は、被害者の親が示談交渉の相手方となります。)
示談を成立させるためには、示談金、それ以外の条件面などでいかに被害者側に誠意を見せることができるか、納得してもらえるかがポイントになります。
示談交渉においては、被害感情を和らげつつ、できる限り有利な条件・金額での示談成立を目指すために、専門的な交渉技術や経験が必要とされます。
また、そもそも被害者が被疑者と直接示談交渉の席につく可能性はほとんどありません。
警察は被疑者に被害者の情報を教えてはくれませんし、仮に被疑者が被害者の連絡先を知っていても、被疑者本人が連絡することで逆に怒らせてしまったり、心証を悪くしてしまったりするでしょう。無理に交渉を求めれば、それ自体新たな刑事責任に問われる結果になります。
被害者との示談交渉は、最初から経験豊富な弁護士に依頼することをお勧めします。
(3) 示談金の相場
「実際に示談金がいくらになるのか」、「いくら用意する必要があるのか」など、示談金の相場につき疑問を抱いている方は多いと思います。
しかし、示談も相手が存在する交渉事ですので、被害者の気持ち次第、ということにならざるをえません。
示談金は被害感情に左右されることに加え、強制わいせつなどの性犯罪については、精神的な損害そのものを客観的に評価することが困難であるため、被害者の主張する金額がベースとなりがちです。
一方で、示談金額は加害者の反省の気持ちの大きさを表す指標として捜査機関に評価される事もありますから、極端に少ない額で合意した場合には、反省を促すに十分でないと検察官が考えた結果、不起訴につながらないおそれもあります。
そう考えると、強制わいせつの場合は、最低30万円程度は用意することが無難と言えるでしょう。
また、被害者が単に嫌な思いをした、ショックを受けたというだけでなく、犯行そのものが非常に悪質であったために、被害者が心身に不調をきたしてPTSDやうつ病を発症し治療を受けていたり、恐怖のあまり家から出ることもできなかったりというような重大な結果が生じていれば、それに応じて被害者が求める償いの水準は高くなるでしょう。
そのほか、被疑者の側が何らかの理由により速やかに刑事責任から免れたいという事情がある場合には、通常よりも多額の提案をする必要があります。
結果として、数百万円の金額の提示をしなければ合意に至らないという事案もありえます。
このように、示談金は事案によって大きく差が生じるうえ、通常は合意された金額を公にしないことを約束するため統計を取ることも難しいので、相場は定まっていません。
しかし、ご相談時に、事案の内容などを詳しくお聞きしたうえで、弁護士の経験からある程度の目安をお伝えすることは可能です。
4.当事務所における実際の交渉経過
泉総合法律事務所において実際にあった事例として、強制わいせつ罪で警察から事情聴取を受け、その後検察に事件が送致された事案がありました。
幸い逮捕はされておらず、在宅での捜査でしたが、会社の関係などからどうしても前科は避けたいとのご希望だったため、被害者との示談交渉を行いました。
ところが、被害者は、加害者側の引っ越しなどの厳しい条件を提示してきたため、条件面でなかなか折り合いがつかず、交渉は難航しました。
そこで、被害者には、加害者やそのご家族の反省文などを渡し、本人が大変反省していることや、引っ越しなどのすべての条件に従うことはできないが、できる限り被害者の希望に添えるように、その分、示談金を当初の提示額から倍増させることなど、加害者側の誠意を伝えて、粘り強く交渉を重ね、最終的に示談が成立しました。
その後、この事件は不起訴処分が確定していますので、示談成立が結果に大きく影響したものと考えられます。
5.性犯罪を犯してお困りの方は泉総合法律事務所へ
強制わいせつ罪については、非親告罪となったことから、示談が成立したとしても必ず不起訴になるわけではなりません。
しかし、検察官の起訴・不起訴の判断において、示談成立が大きなウエイトを占めていることに変わりはないと思われます。
そこで、強制わいせつ罪などの性犯罪を犯してしまい、示談を成立させ不起訴にすることをご希望の方は、まずは示談交渉の経験豊富な泉総合法律事務所にご相談ください。
刑事事件を多く取り扱った経験豊富な弁護士が、被疑者の方の利益のために全力でサポートいたします。
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