刑事事件

痴漢事件における示談交渉の流れ

痴漢事件の示談交渉

「痴漢をしてしまったのが見つかって警察に呼び出されたので、弁護士に相談しに行きました。弁護士は、被害者と示談をして不起訴処分を目指すのがよいと言っていましたが、示談交渉って具体的に何をすれば良いのでしょう?」

痴漢事件において、被害者との示談が成立しているか否かは、処分内容に大きな影響を及ぼします。
しかし、示談交渉を被疑者のみで行うのは難しく、示談を行い処分を軽くしてもらうためには、原則として弁護士に依頼する必要があります。

ここでは、痴漢事件の示談交渉について、示談の方法や示談金の相場までご説明します。

1.痴漢とは

痴漢事件とはいっても、「痴漢罪」という犯罪は存在しません。
痴漢は、行為の態様(悪質さ)によって、成立する罪名・刑の重さが異なります。

一般的に痴漢事件で問われるのは、「各都道府県の迷惑行為防止条例違反」または「強制わいせつ罪」です。

被害者の身体に手を触れたのが着衣の上からであれば各都道府県の迷惑行為防止条例違反、着衣の中に手を入れたのであれば強制わいせつ罪、という説明が一般的になされることがあり、実際もそのような運用がなされているように弁護士も感じています。

しかし、迷惑行為防止条例違反の条例の規定は各都道府県によって異なるため、着衣の中に手を入れたからといって必ず強制わいせつ罪に問われるわけではなく、各都道府県の迷惑行為防止条例違反にとどまることはあり得ます。

【埼玉県迷惑行為防止条例】
第2条4項 何人も、公共の場所又は公共の乗物において、他人に対し、身体に直接若しくは衣服の上から触れ…等、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような卑わいな言動をしてはならない。
第12条2項 次の各号のいずれかに該当する者は、六月以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
1 第二条第四項の規定に違反した者

【強制わいせつ罪】
刑法176条 十三歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、六月以上十年以下の懲役に処する。十三歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。

強制わいせつ罪の法定刑が「6月以上10年以下の懲役刑」とされ、罰金刑が定められていない一方で、埼玉県迷惑行為防止条例は、50万円以下の罰金を罰則として定めています。

痴漢をしたとしても、迷惑行為防止条例違反でとどまるか、強制わいせつ罪にまで至るかは、直ちには判断できるものではなく、捜査機関がどのように判断するかによるところが大きいといえるでしょう。

2.示談とは

示談とは、加害者と被害者が話し合って紛争を解決することです。

刑事事件における示談では、加害者が被害者に示談金を支払う代わりに、被害者が加害者を許し、加害者の刑事処分を望まないという意思を表明するのが一般的です。

示談の結果、加害者が被害者に生じた損害を賠償したこと、被害者が加害者を許したことが考慮され、加害者にとっては、刑事事件の処分が軽くなる効果があります。

また、示談そのものは、加害者と被害者との間の民事上の紛争を解決することになりますので、今後、刑事事件で処分が出たあとに、民事上の損害賠償を請求されるということを防ぐこともできます。

言い換えると、示談ができなかった場合には、刑事事件としての処分が出たあとでも、被害者から民事上の損害賠償を請求される可能性は残るということです。

3.示談交渉の流れ

(1) 被害者の連絡先を得る

示談交渉を進めるにあたっては、被害者の連絡先を捜査機関(警察署または検察庁)から得る必要があります。

捜査機関の担当者は、被害者の安全面や精神面を考慮し、被疑者本人に連絡先を教えてくれることはありません。
しかし、弁護士相手ならば、被害者の意向を確認して、弁護人限りで連絡先を知らせて欲しいとお願いをしてくれます。

捜査機関の担当者が被害者の意向を確認した時点で、被害者が「示談交渉には応じたくないので、弁護人とも連絡をとりたくない」という拒絶の意思を表明すると、(それほど頻繁に起こることではありませんが)この時点で示談交渉は決裂ということになります。

捜査機関から被害者の連絡先を得ることができた場合には、弁護士が被害者に連絡をして、示談に応じていただけるようお願いをします。

(2) 実際の示談交渉

実際の示談交渉の場では、弁護士が加害者と被害者の間に入っておりますので、当事者が直接顔を合わせるということは原則としてありません。

そのため、加害者の被害者への謝罪の気持ちを伝えるため、事前に加害者は被害者へ宛てた謝罪文を作成し、弁護士がそれを被害者へ渡すことになります。

そして、事前に加害者と弁護士との間で話し合って決定した示談金を被害者に提示し、弁護士が被害者に示談を受け入れていただけるようお願いします。

被害者が加害者の謝罪を受け入れ、示談金についても満足し、示談にご納得していただけることができれば、示談成立となります。
弁護士は、示談成立にいたるまで、謝罪文を追加で作成する、示談金額を上げるなどして、被害者の方にご納得いただけるよう粘り強く交渉を続けます。

(3) 示談が成立したら示談書を捜査機関へ提出

痴漢事件の場合、示談において、二度と起こさないための方策(たとえば、二度と被害者と接触しないために事件を起こした沿線の電車に乗るときは今後常に電車の先頭車両に乗ることを約束したり、痴漢事件を起こした駅を利用するときは常に東口を利用することを約束したりするなど)、作成した謝罪文を通じた加害者の反省の状況、示談金額などが話し合われることが多いです。

示談が成立したら、弁護士はその示談内容を取りまとめた示談書を作成し、捜査機関へ速やかに提出します。

これにより、最終的な処分を決定する検察官は、示談の成立を情状酌量の1つとして、被疑者の処分を寛大にする可能性があります。

【示談金はいくらぐらい用意するべきか】
一般的な話ではありますが、当該痴漢行為が迷惑防止条例違反に該当しそうな場合には10万円から30万円、強制わいせつ罪に該当しそうな場合は30万円以上が示談金の相場となっているように感じます。
しかし、示談金額の相場は、特に根拠のあるものではありません。刑事処分を軽くするために、いくらまで示談金として用意できるかということを、加害者の方には考えていただく必要があります。
その示談金として支払える最大限の金額をひとまずご用意いただき、弁護士としては、その金額の範囲内で被害者に合意いただけるよう努めてまいります。
もちろん、不当に過大な示談金を請求されてしまった場合も、真摯な態度で被害者の方と交渉いたします。

4.まとめ

痴漢事件を起こした後の示談交渉の流れや、示談交渉の際にはどのような点を意識するべきかなど、ご理解いただけましたでしょうか。

示談交渉をどのように進めるべきか、示談金額はいくらぐらいになりそうかなどは、事案により異なります。

泉総合法律事務所にお越しいただいた際に詳しくお話いただけましたら、弁護士が当該事件の大まかな見通しを立てさせていただきます。

各事案に応じた適切なアドバイスを行いますので、痴漢事件を起こしてしまったという方は、是非とも泉総合法律事務所にご相談いただければと思います。

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