債務整理

破産事件の管轄裁判所について

破産事件の管轄裁判所について

借金問題でこれ以上返済が不可能なのでやむを得ず破産したいという方は少なくありません。

それでは、破産手続きを裁判所に申立てようとなったとき、普段は気に留めることはありませんが偶に問題となるのが「どこの裁判所に申立てるのか」という、管轄裁判所に関する事柄です。

1.法律では

破産事件の管轄を定める基礎となる条文は破産法5条1項になります。

破産法5条1項
破産事件は、債務者が、営業者であるときはその主たる営業所の所在地、営業者で外国に主たる営業所を有するものであるときは日本におけるその主たる営業所の所在地、営業者でないとき又は営業者であっても営業所を有しないときはその普通裁判籍の所在地を管轄する地方裁判所が管轄する。

一般的にはこの条文に従い、法人であれば本店所在地、個人破産であれば住所地を管轄する裁判所で申立をすることになります。

2.移送

ほとんどの破産事件は破産法5条1項の規定通り、法人の本店所在地あるいは個人の住居地で申立をすることに迷いは出てきませんし、裁判所から何らかの指摘を受けることもありません。

しかし、破産法5条1項はあくまで原則の規定ですので例外もあります。

適切な管轄裁判所と考え申立をしても裁判所が「本件を取扱うにあたっては、より適切な裁判所がある」と判断した場合に申立をした裁判所から別の裁判所に事件が移されることがあります。これを移送と言います。

移送を経験することは滅多にありませんが、法人破産の際にこの移送に直面したことがあります。

その案件は、会社の本店所在地も代表者の住所も埼玉県内でしたが、会社事業に関する施設が複数、東北地方にあり、債権者にも多数の東北地方居住者がいました。

このような事情があったことから、複数の会社事業施設が存在する地域を管轄する裁判所に事前に申立ての可否を問い合わせしました。

すると、その裁判所からは「会社の本店所在地や代表者の住所地が埼玉県内にあるというのであれば、埼玉県内の管轄裁判所に申立てをするべき」と回答されました。

その裁判所の指示に従い埼玉県内の裁判所に申立てをしたところ、申立した裁判所の裁判官から直接電話連絡がきました。

大筋で「たしかに本店所在地や代表者居住地は埼玉県内だが、主要な財産は東北地方に存在している」「会社財産の換価処分を考えた時に埼玉県内の管財人より東北地方の管財人の方が動きやすい」「債権者も関東地方より東北地方居住者の方が多い」という見解を示したうえで、申立代理人の見解も確認したいということでした。

こちらとしても、当初より東北地方の裁判所が適切ではないのかと考えていた経緯もあったので、埼玉県内の裁判所に申立てをした経緯を説明し、移送するか否かは裁判所の判断に委ねる旨の回答をしました。

案の定、埼玉県内の裁判所から東北地方の裁判所(申立前に問い合わせをした裁判所)への移送が決定されました。

3.移送後

結論から言うと、埼玉県内の裁判所が出した移送の決定は適切な判断であったと言えます。

まずは、財産状況の把握という点では、管財人が地元の弁護士ということもあり、地理にも明るく、点在している法人財産の状況を機動的に見て回ることができるという強みがありました。

複数の、しかもそれなりの規模の不動産ともなると、遠距離に所在する事務所の管財人が管理をするということはなかなか難しいところがあります。

他にも、地元ならではの事情にも管財人が精通していることがありました。関東地方平野部では滅多に気にすることがない「積雪」ですが、東北地方(特に山間部)は数メートルの積雪に見舞われます。

知識としては知っていたものの、申立時期が夏だったということもあり、ほとんど意識していなかったことでしたが、管財人から財産の管理(特に建物)をする上で、注意しなければならない点として真っ先に指摘を受けました。

除雪をどうするか、除雪をせず放置しておくとどうなるか、除雪費用のこと等、やはり地元であるからこそ注意すべき点を教示していただきました。

もっとも、移送によって生じる効果はメリットのみではありません。居住地を管轄する裁判所であれば、債権者集会で裁判所へ出頭することに時間的、金銭的支障が生じることはほとんどありません。

しかし、東北地方の裁判所へ移送されたこの件では、債権者集会ごとにその裁判所へ出頭しなければなりません。複

雑な案件や規模が大きな法人の案件等では債権者集会は1回では終わらないことが多いので、やはり負担がその分大きくなってしまいます。

4.まとめ

紆余曲折はあったものの、この案件も無事に手続きを終えることができました。滅多に経験することがない「移送」。これからも経験する機会はほとんど無いとは思います。

しかし、1度も経験したことがないことと、1度でも経験したことがあることとでは、同じような事案に遭遇した時の依頼者へのご案内や自分自身の心構えも違うのではないかと考えます。

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