法人破産

法人を破産させたいと考えていても「法人破産できない場合」とは?

法人を破産させたいと考えていても「法人破産できない場合」とは?

会社の経営が行き詰まったときには、自己破産をして会社を清算する方法が選択される場合があります。

経営者にとって、会社の自己破産を選択することは重大な決断です。

会社は破産すれば消滅し、現在抱えている負債を踏み倒すことになってしまうからです。従業員や取引先などにも迷惑をかけることになってしまいます。

実際にも、経営が行き詰まりながらも会社の破産に躊躇を覚える経営者は少なくありません。好き好んで会社を自己破産させる経営者はいないからです。

他方で、もうこれ以上事業再建の見込みがないと思いながらも、「どのような状態であれば自己破産できるのか」ということがよくわからないという経営者の方も少なくないようです。

そこで、今回は、法人を破産させるための条件(法人が破産できない場合)について解説します。

1.法人が破産するための要件(破産原因)

まず、法人が破産できる場合について確認しておきましょう。

破産は、非常に重大な法手続きです。破産すると、破産者は所有する財産の管理処分権を失い、法人の場合には解散事由となります。

また、債権者にとっても、債務者の破産手続きが開始されれば、個別的な権利実行が禁止され、債権回収が不可能になってしまいます。

したがって、破産手続きは「どんな場合でも簡単に申し立てられる」ものではありません。

破産法は、債務者が「支払不能」の状態になければ破産手続きを開始できないと定めています。

また、法人の場合には、「法人が債務超過」の場合にも破産手続きを開始することが認められています(存立中の合資会社・合名会社を除く)。これらを「破産原因」と呼んでいます。

(1) 支払不能

破産するためには、破産者が「支払不能」であることが必要です(破産法15条1項)。

支払不能」とは、「債務者が支払能力を欠くために、弁済期にある債務を一般的、継続的に弁済することができない状態」と説明されます。

簡単にいえば、「債務者がいま抱えている負債を返済することがもはや不可能といえる状態」ということです。

支払不能であるかどうかは、客観的に判断されることなので、債務者に「返済の意思があるかどうか」は問題とはなりません。

つまり、債務者が「いま抱えている借金は何とか返したい」とどれだけ強く思っていても、返済の引き当てとなる資産がなければ支払不能とされる場合があるということです。

また、「いま計画している新規事業が成功すれば返せる」、「宝くじが当たれば返済できる(個人の場合)」といったような不確実な根拠では、支払い能力があるとはいえません。

逆に言えば、「債務者が抱えている負債を返済せずに会社を破産させたい」と考えていても、「来月に確実に入金される債権(売掛金)」や、「会社保有の資産」があることで、「返済が不可能とはいえない」のであれば、「支払不能」とは言えないので破産することはできません。

(2) 「支払停止」があると「支払不能」が推測される

「支払不能」は「抽象的な概念」なので、客観的な事象から判断することが難しいものです。

そこで、破産法は、「債務者が支払を停止したときは、支払不能にあるものと推定する」と定めています(破産法15条2項)。

支払停止」は、判例では「債務者が資力欠乏のため一般的かつ継続的に債務の支払をすることができないと考えてその旨を明示的又は黙示的に外部に表示する行為」と定義されています。

実務上、支払停止に該当するものしては、次のものが挙げられます。

  • 弁護士による各債権者への「受任通知の送付」
  • 2回目の不渡り手形による「銀行取引停止処分」
  • 閉店などの「営業の停止」やいわゆる「夜逃げ」

なお、「支払停止」は、「一般的かつ継続的に支払うことを停止する外部表示行為」である必要があるので、「経営者が支払わないと決めた」だけでは足りないのはもちろん、「特定の一部債権者への支払いのみを拒絶した」だけでは、「支払停止」は認められません。

(3) 債務超過

株式会社や有限会社、合同会社といった法人の場合には、支払不能に加えて、「債務超過」にあるときにも、破産原因があるとされます。

債務超過」とは、「会社の財産をもってしても債務を完済できない状態」をいいます(破産法16条1項)。

たとえば、会社の貸借対照表が債務超過であれば、破産法上も債務超過であるといえます(ただし、粉飾決済などがないことが前提です)。

「債務超過」の状態は、「支払不能の手前の段階」といえるので、法人は自然人(個人)よりも早い段階で破産を申し立てることができることになります。

このような取扱いは、株式会社などの法人が「有限責任」であることを根拠としています。

つまり、株式会社は、最終的には資本金の限度でしか債権者に対する責任を負わないので、破産申立ての時期が遅れるほど(債務超過が深刻になるほど)、債権者の保護は薄くなってしまうのです。

そのため、債務超過を破産原因とすることで、債権者との公平性を図ろうとしているわけです(破産法では債権者も破産申立てをすることが認められています)。

したがって、債務について「無限責任」を負っている「自然人」や「存立中の合資会社・合名会社」の場合(破産法16条2項)には、「債務超過」は破産原因とはなりません。

2.破産したくても破産できない場合

破産を申し立て(られ)た法人に破産原因があるときでも、次の事由があるときには、破産手続きを開始することができません。

  • 破産費用が予納されない場合
  • 破産の申立てが「不正な目的」でなされたとき
  • 破産手続き以外の手続きが開始されているとき

(1) 破産費用を支払えない場合

法人破産には多額な費用が必要な場合があります。そのため、実際にも「破産費用が捻出できない」ために破産申立てできない場合があります。

法人破産で最も高額な費用は、破産管財人の報酬に充てられる「予納金」です。予納金の額は、下の表のとおり、法人の負債額に応じて高額となるのが原則です。

負債総額

予納金の額

5,000万円未満

70万円

5,000万円以上1億円未満

100万円

1億円以上5億円未満

200万円

5億円以上10億円未満

300万円

10億円以上50億円未満

400万円

50億円以上100億円未満

500万円

しかし、大規模破産事件でないときには、申立て代理人に弁護士を立てることで予納金を「20万円」まで抑えることが可能な場合があります(少額管財)。

また、手元に現金がない場合であっても、弁護士が売掛金を回収するなどして破産費用を工面できる場合もあります。「破産費用が工面できない」ことがご不安な場合でも、まずは当事務所までご相談いただければと思います。

(2) 破産の申立てが不当な目的でなされたとき

破産手続きは、破産法人の財産を債権者に対して公平に配当するための手続きです。

したがって、いわゆる「計画倒産」のような、債権者を害する目的でなされる破産の申立ては許されません。

したがって、法人を破産させる際には、粉飾決済や財産隠し、不適正な財産売却の有無などについて、事前に厳しく調査・判断する必要があります。

(3) 破産以外の手続きが開始されているとき

上の2つの場合は、破産法が定めている破産障害事由(破産法30条1項)ですが、これに加えて「破産手続き以外の手続き」が開始されているときにも、破産手続きを開始することはできません。

会社の倒産処理は、「破産」以外にも、「民事再生」、「会社更生」、「特別清算」といった手続きがあります。

これらの手続きが実際に開始されているとき(開始されることが確実視されているとき)には、破産手続きを開始することができません。

これらの手続きが成功したときには、「債権者は破産の場合よりも多くの配当を得られる」からです。

経営者の方が「経営が行き詰まりつつある破産を何とか回避したい」と考えるときには、早期に、私的整理を含めた他の手続きを利用することで、「債権者からの破産申立て」を阻止することも可能です。

3.法人破産をご検討中なら泉総合法律事務所へ

法人の破産要件は、個人の場合よりも緩やかに要件が設定されています。それは、会社が有限責任であることから、「より早い時期に破産申立てがなされることで、公平な債権者への配当」を促すことを狙ったものといえます。

言い換えれば、法人の場合には、債権者申立てのリスクも個人破産の場合よりも高くなります。

件数自体は必ずしも多くありませんが、債権者申立てがなされることもないわけではありません。

経営に行き詰まった会社の処理については、「不安なこと」、「わからないこと」、「悩み」が少なくありません。そのため、破産の判断が遅れてしまうことも実際には少なくないようです。

しかし、早期に対処することで、従業員や取引先にかける迷惑を最小限に食い止めることも可能です。

特に、再度の企業で再起を図ろうとするときには、周囲の関係者とのつながりを維持することはとても大切です。

泉総合法律事務所は、法人の自己破産だけでなく、事業譲渡による事業再建、民事再生、特別清算、指摘清算といった会社整理に豊富な経験があります。

会社の今後に不安を感じたときには、当事務所までご相談ください。

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